空撮現場リポート えひめ国体セーリング競技を空撮中継致しました!

10月1~4日、愛媛県新居浜市に於いて、えひめ国体セーリング競技を洋上にてドローン空撮中継を行いました。国体セーリング競技にてドローンを使った空撮生中継は国内史上初となります。

最初に弊社に問い合わせがあったのが、二年数ヶ月前のH27年6月の事。新居浜市国体推進室の方から「御社映像のユーチューブで湘南のウインドサーフィンをドローン空撮している映像が載っていますが、これまでの並走船上からのカメラと違い、上から見ることによって各艇の間の距離やコース取り、レース展開がとても良く解るので、再来年の国体の本競技で同様の空撮を動画中継出来ませんか?」という問い合わせでした。

<弊社Youtube映像より>

弊社としても洋上での空撮中継は初めての作業ではあり、いくつか危惧しなければいけない点や現地に伺い確認しなければいけない点もあり、最初の段階では実現可能かどうか不透明ではありました。ただせっかく戴いた壮大で夢のあるドローン空撮の可能性を開拓出来るお話なので「やってみましょう」と返信。

国体推進室様のご要望は

○一日10レース程度あるレースのうち数レースを競技スタートからフィニッシュまで完全中継。

○中継映像を地上の中継ベースに送りそこでスイッチング(カメラ切換え)、競技内容(選手情報等)のテロップ等も載せる。

○中継映像は会場内大型モニター及び、ネット同時配信し遠隔地でも視聴可能にする。

数日後、計画中の競技コース案の図面や日程の書類を送って戴き、それを元にドローンを含むカメラ配置を検討。スタートからフィニッシュまでを効果的に映像で繋ぐ為のカメラ配置を図面に書き加え返信。

 

<競技コース計画案>

<弊社カメラ配置案>

当初、弊社が提案した内容はドローン2班・船上カメラ1班の3カメでスタートからフィニッシュまでをカバー、ドローンを含む各カメラ船は競技コースの外側の各撮影ポイント付近で停泊、映像は各カメラとも携帯電話回線を使うLTE小型中継機に入れ、地上にある中継ベースに送る仕様。

先方と協議の中、当初浮かんだ問題点は二つ。一つはヨットやウインドサーフィン競技は風速4m/秒以上でなければレースをスタートせず、7~10m/秒程度の風が最適との事、ドローンの最大耐風速が10m/秒なので、最大耐風速を超えた際どうするか?また雨が多少降っても競技は行われるので、雨天時ドローンが飛行出来ない場合どうするか?という点です。

それぞれの場合の弊社の答えはすぐに出ました。元々弊社のドローン撮影のカメラ担当は皆、地上でのカメラマンをやっているので、ドローンが飛ばせない状況時は、船上に予備の通常カメラを置いておき、ケーブルを差し換え船上カメラでの撮影に切り替える作戦です。

<船上カメラ・今回は実験的にMoviスタビライザー(防振装置)も使用>

 

もう一つは、LTE中継機が現地の洋上で携帯回線の波を安定して拾えるか?という点。通常、携帯電話の電波は陸上での使用を前提にカバーエリアを各社構築しており、海上に於いては基本陸上基地局からの漏れ電波により、沿岸から数キロ程度をカバーしている様で、携帯各社が公表しているカバーエリア図で現地瀬戸内海の新居浜沖5km付近を確認すると、一社は圏外、あと二社はかろうじてエリアに入るか?といった様子。

LTE中継機で映像を送る場合、安定した画質で送るには1Mbps程度以上の回線速度が必要ですので、この様なかろうじてエリア内といった場所では、音声通話は出来ても高速のデータ通信は出来ない可能性が大きいので、以前からお付き合いのあるLTE中継機大手メーカー ㈱ソリトンシステムズに概要を説明し、メーカー協力を得て事前に現地で回線テストを行う段取りとしました。

同年11月に同様のヨット競技が現地で行われるとの情報を得て、国体推進室様に提案し、弊社スタッフ3名で現地を訪問。

実際の国体コース洋上付近に船を出して戴き、弊社も実際のドローンとLTE中継機を持ち込んで、船上から飛行、撮影中の映像を船上からマリーナにある陸上モニターに送るテストを実施しました。

<現地回線テストの船上での様子>

結果、想定の国体競技コースのすべてのエリアに於いて、回線速度1M~1.5Mbpsを確保出来ており、2年後の本番時は更に4GLTE回線も増え、速度も上がるだろうから全く問題無しとのメーカー技術担当との話で、国体推進室様にも中継可能と回答致しました。

 

<地上受信モニター側での映像:視察にいらっしゃった方々からもコース取り等状況が大変分かり易いとのお言葉を戴きました>

<回線速度も安定して1Mbps以上を維持>

 

また、現地テストで実際の小型船の船上でのオペレーションに関しての課題も分かりました。

風速5m/秒を超えると船の揺れが大きく、レース当日は朝8時台からレース終了の午後3時台まで船に乗りっぱなしなので、ドローン操縦者やカメラマンが船酔いせず、安全且つ集中してオペレーションが出来るか?という点。

揺れている船上では、ドローンの床面での通常離発着は難しく危険な為、離発着とも機体を手で掴んで行う、いわゆるハンドキャッチですべて行う必要があり、同乗スタッフはその為の訓練を行っておく必要があるという事。

いずれの課題も、本番までは相応の時間があるので、各所しっかりと対策を進めれば良いとの考えで現地テストを終了致しました。

 

その後1年半余り経った今年4月、いよいよ半年後に国体本番が迫り、改めて中継の実施内容や変更点・日程詳細・競技内容の変更点等を確認。

大きな変更点としては、当初地上での中継ベース運営やネット配信部分も弊社で一括担当する予定でしたが、中継映像は会場モニター出しとネット配信だけでなく、地元ケーブルテレビ局(新居浜・㈱ハートネットワーク様)を通じて県内のケーブル局にも中継するとの事で、中継ベースとネット配信部分はケーブルテレビ局様の担当になりました。

詳細が確定した段階で、弊社も最終見積りを提出し、その内容に基づきスタッフ体制も構築いたしました。

当初、中継べース一括担当の場合は人員12~13名を見込んでおりましたが、最終案でドローン班を2班から1班に減らし、船上カメラ班を1班から2班に変更、弊社人員は7名。

長時間の船上でのオペレーションとなる為、スタッフは技量もさる事ながら船酔いに強いメンバーで固めました。カメラマンは釣り番組や遠洋漁船での撮影経験のある面々です。

開催2ヶ月前からは、最終調整段階となり、先方ハートネットワーク様から弊社に打ち合わせに来社され、疑問点や諸事項の確認・中継の詳細資料・機材内容の詳細を照らし合わせ等、落ち度の無いように作業を進めます。

また、スタッフミーティングで本番までに実際の機材・人員で船上での事前訓練をやりたいとの意見が上がり、検討の結果、本番1週間前に千葉県富津港で釣り船をチャーターし、半日間沖合の洋上で現場を想定しドローン飛行及び船上撮影のシミュレーションを行いました。その場で感じた注意点や用意する必要がある追加機材、小物等をリストアップし、準備に移しました。

<千葉富津沖での船上訓練の様子>

 

今回の全体の日程としては、

大会二日前(9/29) 現地へ移動

大会前日 (10/1) 中継リハーサル・全体ミーティング

大会一日目(10/1) 中継

大会二日目(10/2) 中継

大会三日目(10/3) 中継

大会最終日(10/4) 中継(午前のみ・午後表彰・閉会式)

翌日   (10/5) 帰途

といった7日間の日程です。

弊社空撮部業務としても、これまで最長の日程となり、日々長時間の船上での業務となる為、皆体調管理も含め、無事何事も無くミッションを終わらせる必要性から、出発前から緊張感とテンションが上がります。

出発8日前から弊社田高は最終的な段取り・準備作業に入り、又前後の日程で他の空撮案件も数件入っており、同時並行で作業を進める為、現場出動はすべてやめ準備に専念しました。

 

9月29日 出発日 機材と共にハイエース2台で東京から愛媛・新居浜市へ移動。所要9時間。

無事到着し、夜は総決起会となりました。

9月30日 リハーサル日 早朝より、現地にて機材セッティングに入り各パートごと動作チェック、回線担当者は中継べースとの回線チェックを行い、問題無い事を確認後、三艇のメディア船に分かれて積込み、出船。

午前中からリハーサル競技が行われ、それに沿って中継のリハーサルも行い、明日からの番組の流れを実際に確認、終了後中継オールスタッフでミーティングを行い、疑問点等の最終確認をして、明日からの成功を誓いました。

<予備で船上でも各機器の充電が出来るようジェネ(発電機)も装備>

<回線速度も理想の4Mbpsを確保!>

<三艇からの映像を受け、実況解説やテロップを入れ放送する中継ベース>

10月1日 大会初日 快晴の天気になり、会場の新居浜マリーナは早朝から多くの選手・関係者で賑わい、いよいよ開催なんだなと実感する瞬間です。

前日のリハでの感触で弊社チームは既に「いい感じ」になると掴んでいたので、当日朝は何故か緊張状態でありながら心に余裕がありました。

最終日以外、午前2レース・午後2レースの4レース中継が基本です。

やる気満々の飛ばし屋チームはレース開始前の番組オープニングカットでドローンでのレース全景大ロングカットの依頼がインカムで入るや否や即座に高度100mまでフライト!

青空に真っ青な海、点々と浮かぶ真っ白な出走前のヨットと絵になります。

いよいよレース開始時間、しかしあまりにも穏やかな天気の為、風が無風に近く、スタートが遅れたり、スタートしても途中でレース中止となり、しばし船上で風が出るのを待つ時間が発生。

その後2レース程は通しでレースが行われ、中継も無事終了!

少々不完全燃焼のまま、初日競技を終了となりましたが、朝イチLTE中継機が繋がりにくい事象が少々有った以外は、諸々万事問題無いことが確認出来た為、スタッフ皆、出発前からの緊張続きもほぐれ「射程距離に入った」感で、夕食時はまた楽しいひと時となりました。

しかし、明日あさってと雨予報、前線の通過で風もそこそこ出る予報!侮れません。

 

10月2日 大会2日目 朝から小雨、我々の宿が現地近くに取れなかった為、隣の香川県の町から毎朝6時出発!一時間強掛けて現地に向かいます。

午後にかけて段々雨が強くなる予報なので、雨対策のビニールやブルーシート、パラソル等を出航前に各船に配り、ドローンも降り方によっては船上カメラに切り替える体制で両スタンバイ!

小雨混じりのどんより雲の空と体も上下カッパ姿になると、昨日とはうって変わって気分も映えません。

ただ、洋上はレースにはちょうど良い、風速5m程の風が朝から吹いており、条件としては昨日より遥かに良いそうです。

風があるということは船もそれなりに揺れます。特に停泊中はうねる様に揺れるので、最初はウエート袋(砂袋)のみで機材やテーブルを固定しておりましたが、途中からロープで船体各所としっかり結び、どんなに振られても水没しない様固定しました。

幸い、この日はレース開始時にはほとんど雨も上がったりで、直前判断でドローン出動!

一時雨が強くなり、船上カメラに切り替えた時間もありましたが、8割方はドローンでの空撮映像を届ける事が出来ました。

また、段々レース展開に慣れてきた事もあり、初日は比較的競技コース外側の高め斜め上からズームを使って寄る絵が多かったのですが、このあたりからレースに支障の無い範囲で、より高度を落として一団に並走したり、フィニッシュで正面待ち受けをしたりと絵のバリエーションを増やしていきました。

<ドローン手元タブレットにはカメラ映像と各種飛行情報が表示される>

<10秒以上遅れるが、船上でも放送中の中継を確認!>

10月3日 大会3日目 時々小雨が降る天気ですが、昨日より更に風が強い。

またもや朝イチから「ドローンは飛ばせる状況ですか?」と聞かれ「雨より風が心配です、船上から様子を見ながらレースごとに逐一判断します」と回答し、昨日までの映像でもやはり、もうドローンの迫力ある立体的な絵が無しでは「中継がもたない」レベルになっている事を自覚していたので、出来る限り飛ばそうという決意で望みました。

雨は午後にはほとんど上がりましたが、風はどんどん強くなり、10m/秒を超えてるのでは?という吹き様です。ただ海風は息を継がず、一定方向に安定して吹くので、機体の挙動を見ていると安定しており、風上側に飛ばすことを心掛け、これ以上強まったら止めるという判断で望みました。

結果、この日も迫力の映像を多々届ける事ができ、終了後のミーティングでもご評価いただきました。

 

10月4日 最終日 最終日にふさわしい青空、風も弱風。この日は午前の2レースしかありません。昨日一昨日の修羅場を抜けてきた弊社チームにとっては、祝福の天気に感じました。

残り2レースで昨日までに磨いた良いアングルを最大限に作ろうと、飛ばし手もカメラマンも頑張ります! レースに支障の無い範囲でグループを回りこんでみたり、低空から更にズームで選手の表情が分かる位までアップショットを撮ったり、先頭集団をフォローしてフィニッシュまで引っ張ったりと、安全に出来る事を精一杯やったつもりです。

無事4日間すべてのミッションを何事も無く終わらせ、最後の全体ミーティングでは「当初の想像以上に多方面の方から素晴らしい映像でしたとの評価を戴いてます」と伺い、スタッフ一同これまでの苦労がすべて報われた感で一杯に成りました。

<ドローン船で日々的確な指示を戴いた国体ベテランの桐山様・操船担当の渡邊様に感謝!>

機材撤収後、遡ること2年半前、最初の問合わせのお電話を戴いた新居浜市国体推進室の近藤様に全員で感謝の挨拶をして、会場を後にしました。